2007年8月17日 開高 健「根釧原野で「幻の魚」を二匹つること」(完本 私の釣魚大全より)「文芸春秋」 |
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私は初期の開高の釣が好きだ。 釣れた時の感動が素直に出ているし、命を弄ぶ後ろめたさや霊魂にたいする畏敬が行間ににじみ出ている。 万物に宿る霊への感謝が釣人には必要だと思う。 盛大にボーズのがれのヘアートニックを頭に降りかけ、画家の佐々木名人の案内で根釧原野のクリークに乗り出していく。 道糸は7号、ハリス6号である。サケだね、この仕掛けは。餌はドジョウの一匹掛け。 名人が40センチ程のイトウを釣り上げた後で、 「暗すぎもせず、明るすぎもせず、食いも荒い絶好の条件になってきた」とつぶやく。
二度目の竿を振って、リールを巻きだした直後だった、突然竿が引きずり込まれた。
「凄い。凄い引きだ。剛勇無双。グラス竿が円となってしなる。糸が右に左に奔走し、
そのたび体が持っていかれそうになる。
「名人は顔じゅう皺になって微笑する。私はおびただしく疲れ、虚脱してしまい、腰が抜けたとつぶやく。」
「感動が全身にすみずみまでつまり、水のような黄昏のなかをおりていきつつ、私は自身が、何かの、大きな、よく熟した、自身の重量で正しい季節に枝をはなれた果実になったかのように感じていた。」
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